銀座・竹葉亭

正午過ぎ、銀座4丁目の交差点の日産ギャラリーの並びにある「竹葉亭」銀座店に行ってきた。いつも店の外までお客が並んでいて気になっていたのだが、昼休みに並ぶのは時間的に厳しいものがある。今日は台風の接近で人出が少なかったのか行列もなく、ようやく入る機会を得た。2階の座敷は比較的空いていた。注文したのは一番安い「うなぎ丼A」1890円と肝吸い210円。箸でつまむとハラリと千切れる柔らかさだが、口に入れると肉付きがしっかりと感じられる。「うなぎ道」を追求しているわけではないので、他と比べてどれぐらいのものか分からないが、おいしかった。

今秋、ミシュランの東京版が出るそうだが、うなぎ屋なんかも入っているのだろうかとふと思った。もし入っているなら、この店もしくはここの本店なんかどうなのだろう。文学の香りも漂う名店という位置づけである。例えば、銀座店は 永井荷風の「断腸亭日乗」に度々登場するし、斉藤茂吉の歌にも詠まれている。また、夏目漱石の「吾輩は猫である」にも竹葉亭は出てくる。苦沙弥先生の友人、迷亭とそのおじさんの会話のシーンである。

「ハハハハそうなっちゃあ敵わない。時に伯父さんどうです。久し振りで東京の鰻でも食っちゃあ。竹葉でも奢りましょう。これから電車で行くとすぐです」
「鰻も結構だが、今日はこれからすい原へ行く約束があるから、わしはこれで御免を蒙ろう」(「吾輩は猫である」より)

店の歴史はもっと古く、創業は江戸時代末期にまで逆上る。メニューの解説によると、本店があったのは現在の新富町で、千葉周作と並ぶ剣豪として知られた桃井春蔵の道場「士学館」の近くにあり、道場門下生の「刀預かり所」を兼ねる茶屋だった。「刀預かり所」というのはよく分からないが、「ぐるなび」にあった「竹葉亭の歴史」の説明を読むと、門下生が稽古着に着替える際に刀を預けていたところだったらしい。その頃からうなぎを出していたわけではないようだが。