911陰謀論

 「日本外交 現場からの証言」(1993年)という好著を書いた元外交官の孫崎享氏の新著が出た。「日米同盟の正体」という本だ。戦略論や安全保障についての本で、米国の世界戦略に批判的な立場から書かれているが、同時テロの陰謀論を示唆している部分はいただけない。同時テロに関する陰謀は

  1. 自作自演(米政府がテロ計画を立案した)
  2. 消極的関与(米政府はテロ計画を察知したが、放置した)

が主なものだが、孫崎氏は後者の消極的関与を臭わすのである。アフガニスタンイラクへの軍事行動をやりやすくするための謀略の可能性があるというわけだ。陰謀論が跋扈するのは、「陰謀である」ことを示す証拠もない代わりに、「陰謀ではない」と証明することも困難な点にある。存在するものを証明するのは、何か一つの事例を示せば済むが、存在しないことを証明するのは難しい。私は陰謀論を採用しないが、その理由は何か。正直なところ、「常識」とか「信念」、「世界観」ということに帰着してしまう。

 自作自演については、証拠はないし、陰謀論者の指摘は反論されているが、消極的関与説については、外形的にみると、テロ情報が政府上層部に上がっていたのに、無視した形になっているのは事実だ。だが、官僚機構や政府などをオールマイティだと「過信」しているのではないかと思う。かつて世界から畏怖された日本の官僚機構をみれば明らかなように、その実態は精緻なシステムとはいいがたい。テロ情報が整然と最上部までスムーズに上げられるとは限らないし、「陰謀」を隠蔽できるほど組織の結束が徹底していない。

日米同盟の正体~迷走する安全保障 (講談社現代新書)

日米同盟の正体~迷走する安全保障 (講談社現代新書)